この展覧会は、北斎の没後170年を記念し、長野県小布施町の北斎館と、東京都墨田区にあるすみだ北斎美術館がお互いの名品を交換展示するものです。東京都墨田区は、江戸時代に活躍した浮世絵師葛飾北斎ゆかりの地として有名であり、また、小布施町は北斎が晩年の頃来遊し大作を遺した場所として知られています。本展覧会では、すみだ北斎美術館のピーター・モースコレクションを中心とした貴重な作品の数々を大公開いたします。
ピーター・モースコレクションには、北斎の画業の軌跡を知る上で欠かせない貴重な作品が数多く存在します。北斎作品の一大コレクターとして世界的に知られた存在のピーター・モース氏(1935年〜1993年)は、ホノルル美術館副主任研究員等を歴任し、東西の版画芸術の研究者としても活躍した人物です。平成5年のモース氏の急逝後、そのコレクションの散逸を惜しんだ御遺族がすみだ北斎美術館の計画に理解を示し、墨田区が総数600点に近い北斎作品や研究資料などを取得しました。それが今日のすみだ北斎美術館の貴重なコレクションとなっています。本展覧会ではこれらの中から選りすぐりの作品をお借りし、加えてすみだ北斎美術館が所蔵する肉筆画や高井鴻山の書画を展示します。本展覧会における展示総数は236点にのぼります。
江戸時代に摺られた版画の中には、美しく繊細な描写のものから、ユーモアに溢れた面白い作品、北斎が西洋画法にも興味を抱いていたことが分かる遠近法をつかった作品など、さまざまなものを見ることができます。また、それらの色鮮やかさには、見る者に時間の経過を感じさせない不思議な感覚さえ覚えさせます。中でも傑作と言える肉筆絵巻「隅田川両岸景色図巻」は壮観なもので、隅田川の岸辺に広がる風景、風俗などの当時の様子を繊細で優雅な筆致で描いています。さらに近年寄贈を受けたフリーア美術館所蔵の北斎筆肉筆作品の高精細複製画も借用し、門外不出の作品を鑑賞していただけます。