日本文化では、反復と複製は芸術的創造の基礎として位置付けられています。オリジナリティこそを良しとするヨーロッパ近代主義とはおよそかけ離れた日本の美術界では、模倣と複製が見られるのも、また当然と言えます。これらの行為は先達に対する尊敬を払うことと同義とされ、長い歴史を持つ絵画的伝統の中で堂々と行われました。ハンブルグ美術工芸博物館の傑出した日本絵画・版画コレクションによって、私たちは幸いにも、これら絵師たちのいわば肩越しに、その制作風景を覗き見ることが出来るのです。
本展では、当館の東洋美術コレクションから厳選された素描、多色摺木版画、掛物、冊子、屏風など約100点の作品が、江戸後期から明治にかけての日本の視覚文化の礎に対する洞察を与えてくれます。この洞察に基づいて、展覧会は、今日の日本文化にも受け継がれる視覚的モチーフの創造からさらなる発展、その広がりと受容を辿ります。言わずと知れた浮世絵の巨匠・葛飾北斎(1760〜1849)や豊原国周(1835〜1900)、歌川国芳(1798〜1861)を始め、河鍋暁斎(1831〜1889)や鈴木其一(1796〜1858)等、19世紀の重要な絵師たちにも着目しています。彼らの作品は、1900年前後のヨーロッパの画家たちに多大な影響を与え、今日もなお、世界中のアーティストにインスピレーションを与え続けています。北斎の《神奈川沖浪裏》(1830〜31)が「ザ・グレート・ウェーブ」と呼ばれて数知れない芸術作品に取り入れられ、また絵葉書・マグカップ・Tシャツなどのグッズとして膨大な複製品を生み出していることは、その代表例として挙げられるでしょう。樋口明宏(1969生)、横尾忠則(1936生)、ホルスト・ヤンセン(1929〜1995)ら、多彩なアーティストの作品は、日本の浮世絵や絵画の傑作が持つ色褪せないインパクトの永続性を、見るものに示してくれます。