大和日英基金は、イギリスでの佐伯洋江の初の個展を開催することを大変嬉しく思います。知覚の限界の識閾に息づく佐伯洋江の作品は、対象の自然の美をモノクロームで探求し、重さを感じさせない繊細なタッチで描かれ、空間を広く取った構成は伝統美を想起させます。そこでは、写真と同じように、アートワークの統一性とディテールは等しく重んじられているのです。
無の空間は彼女の作品には不可欠のものであり、ミクロとマクロの視点の共存を可能にしています。従って、彼女の選んだツールは鉛筆―消し去ることが可能な故に儚く、漠然としているが故に流動的で、従うべき輪郭線を持たない故に解き放たれたものです。
本展では、黒鉛と水による佐伯の新境地が展開されます。粉末状の黒鉛は水の毛細管の中を移動し、水が乾いた時点で、その場にある紙の表面に吸着されます。結果として、あたかも水によって形成された惑星の表層を思わせる面が出現するのです。
佐伯の手法は、生体或いは鉱物の生成、例えば地質学的な堆積物との関連性を思い起こさせます。精妙なる極細の線は、鑑賞者を生体の細胞構造レベルのナノ世界へと誘います。この新しい手法が孕む偶然性と相まった時に、それらは宇宙的な感覚を獲得するのです。佐伯の新作は、彼女の世界観を、あらゆるスケールでの宇宙との相互接続への希求と融合しています。