兩依藏博物館は、『至高の輝き―アジア・ヨーロッパ女性装飾品の美』と題し、王朝時代後期から近代初期にかけての中国と日本で、女性の衣装と装飾品が、ジェンダーと社会的アイデンティティの確立にどのような役割を果たしたかを探る画期的な展覧会を開催します。注目の出品作は250余を数え、中国女性の寝室に置かれた伝統的な家具や、日本女性の髪飾りや銀製品、また両国の染織品に至るまで、女性たちが日々の暮らしの中で愛用した品々を取り揃えました。展示を通して、東洋の考える伝統的あるいは現代的女性美という概念と、それが西洋から新たに持ち込まれた思想や道徳、観念と出会った結果、どう希釈され変容されていったかに対する一つの洞察を与えることを狙いとしています。本展は2019年9月17日から2020年2月27日まで、当博物館で開催されます。
当館が新たに収蔵した日本美術コレクションのデビューを飾った今年3月の『菊と龍―日本と中国の17〜19世紀装飾芸術』展の成功を基盤とする本展は、当館の日本美術コレクションの更なる紹介と、アジア美術のデザイン、技巧、遺産に対する弛まぬ研究の成果を明らかにするものです。前回の展示では、主に男性を担い手とする学者と文人の世界に焦点を当てましたが、本展では社会を構成するもう半分の人々である女性に注目します。
衣服と装飾品は、人類の歴史のほぼ全てにおいて、文化と美意識の発展を映す鏡であると言えます。これらは、ある特定の文化様式が、個々の目的と日常の自己表現のために人々によってどう解釈されるかについての優れた研究材料となります。中国・日本ともに、儒教的価値観に深く根ざす社会である以上、何世紀もの間、女性の持つ権利は男性の下位、良くても周辺的なものに限定されてきました。識字率の低さ、最小限に留められた財産権、そして公の場での発言力の小ささは、女性を家庭に属する装飾的存在とし、彼女たちはその地位に相応しく着飾られたのです。
地理的な条件、気候、文化、歴史と習俗習慣は、個々の社会の持つ美意識を形成する一般的な要因の一つです。そこで本展では、中国と日本の伝統的な美の基準を、よく知られた揚州周延(1838〜1912)による一連の浮世絵《時代かがみ》を含めた絵画とイラストレーションで詳らかにすることから始めます。
本展の中心となるのは、選び抜かれた木工、染織品や髪飾りの展示で、これらは全て17世紀から19世紀にかけ、中国と日本の伝統的な女性たちによって使用され、或いは身に付けられた品々です。家父長制に基づく中国の家庭では、女性の居場所は奥向きに限られ、いきおい彼女たちは殆どの時間を各々の私室で過ごすことになりました。寝台は最も大切な嫁入り道具であり、離別や死別の後にも女性の手に残される数少ない財産の一つで、家庭内での地位を象徴するものでもありました。日本でも同様に、髪型をも含めた衣装や装飾品は、それらを纏う女性の文化的アイデンティティと社会的地位を反映しています。歴史上のある年代では、どの結髪を選ぶかが、芸能者や遊女と上流夫人を識別する指標として機能していました。また、髪飾りの選択は、着物と同じく季節によっても左右されます。四季の区別が明確な日本では、職人たちが、其々の季節に纏わる視覚的なイメージを意匠の中に取り入れました。
文化・思想の交流は、一方通行ではあり得ません。西洋もまた、異国情緒豊かな東洋の文化に大いに影響を受けました。「東洋のパリ」と呼ばれた上海を始め、中国各地の港湾都市を拠点にした貿易商や宣教師たちが仲立ちとなり、中国のファッションが本国に紹介されました。当館のヨーロッパ装飾品コレクションの中から、1920〜1930年代のシノワズリ、ジャポニズムの影響の色濃い作品に的を絞って紹介し、本展の締めくくりとします。
展示内容を実生活での具体例と社会的な文脈に関連づけるために、本展では隋代(569〜618)から今日に至る歴史の中からWu Jiangxian(吳絳仙)、 Yuan Dashe(袁大捨)、 Guan Daosheng(管道昇) 、 Mo Shuyingという、それぞれ文学・芸術・政治の世界に顕著な貢献をした4人の中国人女性を選び、彼女たちの人生を観覧者が追体験できるよう、4つの展示室を用意しました。結果として本展は、日中両国ならではの職人技と創造的表現の粋をただ展示するに留まらず、広く人類の歴史の進歩の貴重な記録の提示としても、力強い魅力を獲得しています。女性の進化するアイデンティティと社会的地位。これらに対する社会的意識の変化を論じるグローバルな対話に、来館者をご招待します。
本博物館では、本展に関して、館長による序文をはじめ、他の学芸員や研究者による展示作品の歴史・文化・社会学・美学的側面を語ったエッセイを含む図版目録を購入出来ます。また展示内容の補完として、各方面の著名人による無料の講演会が毎月開催されます。詳しくは当館のウェブサイト、フェイスブック、インスタグラム及びWechat(微信)をご覧下さい。