「金色の贈物―日本の漆塗箱の美」展は、日本の漆工芸について、その材質と機能、装飾技法、更には象徴性を鑑賞者に紹介するために、15世紀から21世紀にかけて製作された約20点の優れた漆工芸品を選び、数点の絵画作品と共に展示するものです。本展は、1)黒と朱のかたち2)季節と瑞祥のモチーフ3)詩と文学との関連性4)材料と技法という4つのテーマに沿って構成されています。近年フェアフィールド大学附属美術館に所蔵された19世紀の硯箱を含めた出品作品は、個人及び公共のコレクションから厳選されました。
日本では、本物の漆器は非常に時間のかかる工程を経て製作されます。ウルシノキの樹液を採取し、精製し、着色した後にやっと、多くの場合は木材で作られた基質の表面に途切れなく塗ることが出来るのです。塗布した漆の層が乾燥して硬化すると、防水性と耐久性を兼ね備えた器となります。多くの漆器は艶のある黒または朱色の無地のままで仕上げられますが、16世紀から17世紀に発達した「蒔絵」技法により、その装飾性は極限まで高められました。日本独特の蒔絵技法では、金やその他の金属の微細な粉末を漆面に撒いて、季節感豊かな、あるいはまた詩や文学のテーマを暗示する抽象的・絵画的なデザインを描き出します。硯箱や様々な用途の箱、棗、テーブル、食器など、漆器は優れて機能的ではありましたが、高価でもあり豪華に装飾された一部のものは大切にされ、たまにしか使われませんでした。従って、漆塗の箱はステイタスシンボルともなり、趣味の良さや富を知らしめるものとなったのです。「手箱」と呼ばれる化粧品箱は、婚礼調度の中でも重要な位置を占め、「硯箱」には書を嗜むのに必要な品々が収められます。これらの箱は、新年の祝いのように、大切で目出度い折々での贈り物としても用いられました。更に江戸期(1615〜1868)には、非常に凝ったデザインの「印籠」と呼ばれる印章或いは薬を入れる小さな容器が、粋なファッションとして和装の男性の腰に下げられました。漆工芸の伝統は、染織デザイン、陶芸、絵画、書、彫刻などの日本の他の芸術と、互いに影響を与え合い受け合う対話の関係にあったのです。
※美術館は、4月30日まで臨時休館中です。