横浜美術館所蔵の写真を通して、あなたも20世紀日本の社会的・政治的激動の時代の目撃者になって下さい。
日本語で「洪水」「溢れ出ること」を意味する「氾濫」というテーマに霊感を受けた本展は、20世紀、より正確には1930年代初頭から1990年代までの日本を、28人の傑出した写真家のレンズを通して映し出すものです。日本国外では初公開となる本展では、日本が受けた核兵器による惨禍とそれからの尋常でない復興の全てがカメラという機械の目の前で顕になり、鑑賞者の目もまた釘付けにする、容易に忘れ難い展覧会になることでしょう。
1848年に初めて日本にもたらされて以来、写真は西洋と同じように日本でもドキュメンタリー、政治、報道写真、そして芸術のために用いられてきました。マスメディアや雑誌、写真集などは元より、さらに重要な点は、アマチュア市場を通じて写真は大衆の想像力をがっちりと掴んだのです。
写真を芸術として認知させるために取られた絵画主義というアプローチは、1930年代即ち「氾濫」出展作品の制作が始まる時代に、前衛的な「新興写真(ニュー・フォトグラフィー)」にその座を譲りました。写真の潮流は、戦争の落とす暗い闇と残酷な現実を写し出すことから、中平卓馬に代表されるラディカルな「アレ・ブレ・ボケ」写真へ、更にジェンダーや都市生活といった日常にある物事に焦点を当てた今日的なものへ―と、リアリズムと虚構、伝統と近代性の間を揺れ動きます。これらの写真家たちは、日本が世界でも最も優れたカメラ機器とフィルムを生産する国の一つになるのと並行して、写真という媒体の持つ創造性を押し広げていきました。
2017年に横浜美術館で開かれた大規模な展覧会を再編した本展は、総数200点を超える作品によって、最も表現力豊かで最も斬新な写真文化を伝えるものです。
本展は、横浜美術館とカナダ国立美術館のカナダ写真研究所の協力によって企画されました。
「横浜は、東京圏では初めて世界各国に門戸を開いた港であり、進歩的な気風を持った内外の多くの写真家たちがこの街を通って来日し、あるいは旅立ちました。本展では、20世紀日本の都市風景と人々とを捉えようとした彼らの情熱と挑戦を目の当たりに出来ます。」
――木村絵里子 横浜美術館主任学芸員