『蝶番―彭城百川と南画の誕生』展は、日本に於ける南画の父と呼ぶべき彭城百川(1697〜1752)にスポットを当てるアメリカ初の展覧会です。日本美術史上に重要な足跡を残す百川は、中国絵画の詳細な観察に基づく作品を作る一方で、18世紀日本絵画の変革に中心的な役割を果たすことで、二つの芸術的伝統を繋ぐ蝶番の役割を果たしました。中国明代の文人画の伝統の中で、絵画は文学や詩、哲学と芸術に造詣の深い士大夫の手になる表現芸術として鑑賞されて来ましたが、南画の担い手である絵師たちは、自分達自身の深い思索や感情を表す方法として絵画を用いました。本展では、百川の作品と合わせて、池大雅や与謝蕪村に代表される南画の第一世代と第二世代にあたる絵師たちの優れた作品を、当館のコレクションのみならず、フィラデルフィア美術館、メトロポリタン美術館、ミネアポリス美術館などの錚々たる美術館のコレクションからお借りしてご紹介します。
当展覧会では、百川の手になる18世紀の六曲一双《山水図屏風》の広範な保存・修復プロジェクトにもスポットを当てます。南画の世界的権威の一人であった故ジェイムズ・ケイヒル名誉教授から当美術館に寄贈されたこの作品は、同教授によって傑作との評価が定まったものです。当展で公開されるプロジェクトの詳細からは、百川の絵画に新たな知見を見出すのみならず、複雑で高度に専門的な保存・修復という芸術への扉が開かれるでしょう。
ジュリア・M・ホワイト、フェリス・フィッシャー、木下京子、Kawazu Tomokatsuによるエッセイを含む図録は、ミュージアム・ストアでお求め頂けます。