印籠―紳士貴顕が着物の帯から下げた段重ね式の小箱―は、16〜19世期の日本では、単なる実用的なアクセサリー以上の存在でした。
印判とその付属品を収納するための実用品として登場した印籠は、後に薬やその他の小物の容れ物としても用いられるようになりましたが、すぐにステータスシンボルとして、また美術工芸的価値を備えた装飾品としての地位を獲得します。使い勝手の良い印籠の形状は、製作者にとっては、己の持つ技巧と美的センスを誇示する抗い難い誘惑を呼び覚ますに格好の形でもあったのです。施す装飾も、主題もスタイルも無限に選べる印籠の持つ普遍的なデザインは、今日でもなお人々を魅了します。
特別展 「印籠―男が生んだ流行」展では、当館のコレクションの中から100点以上を選び、テーマ別にご紹介します。