1989年に当美術館で開催された初の個展から30周年を記念して、現代日本版画界を代表する作家の一人、弦屋光渓の作品77点を紹介します。1984〜1993年にかけて限定制作された全歌舞伎役者絵が勢揃いする、前代未聞の展覧会です。
時に奇異にすら見える大胆なタッチと色彩で、歌舞伎役者の感情の起伏までをも捉えてみせる光渓、人呼んで「現代の写楽」。偉大な先達と異なり、自彫・自摺で繊細な雁皮紙を用いて仕上げた作品は、デリケートな素材とドラマティックな表現が並立し、他に類を見ない迫力を生んでいます。
役者絵というジャンルをより深く探究するために、大きな文脈で光渓芸術の立ち位置を理解できるよう、写楽を始めとする和洋の比較作品も同時に展示します。
更に、役者が複数の役を演じ、男が女に扮するという歌舞伎独特のアイデンティティの揺らぎを手掛かりに、自我の定義とその表現についての本質的な問題に迫ります。その意味からも、光渓が2000年に役者絵制作22年の幕を引いてから取り組んできた自画像の展示は見逃せません。
日本の歴史の中の「浮き世」と今日の我々の文化とがどう創造的に繋がり得るか、是非ご自分の目でお確かめください。