しばしば「わびさび」という言葉を耳にしますが、実のところ「わび」と「さび」とは異なる美意識です。それでは「わび」と「さび」とはどう違うのでしょうか。多様な解釈があるとは思いますが、美術工芸品を例にとってこれを説明しますと…
余白の多い簡略な筆遣いの絵。割れてヒビが入った茶碗。不完全な物。Incomplete。
けれども他の物に無い固有の姿に、かえって面白さが感じられる。それが「わび」。
燻し銀。煤けた古竹。時を経て色味や肌合いが変質した素材。無常。Impermanent。
けれども新品ピカピカの物には無い、落ち着いた味わいが感じられる。それが「さび」。
いずれも本来ネガティヴな評価であったものに対し、ポジティヴに楽しむ心を働かせています。そんな逆転の発想が共通することから「わびさび」として一緒に使われることになったのでしょう。
本展では、上述の解釈にしたがって書画や工芸品を陳列し、「わび」「さび」をめぐる細やかな美意識の違いを示してみたいと思います。